四月是你的满分作文

2019-12-01 作者:娱乐资讯   |   浏览(135)

2.友人A

ACT4 誓約

気が付けば、茜(あかね)色の雲のスクリーンに、瞼の裏の暗幕に、リフレインする。
何度も、何度も、何度も…
その度に僕の心は、母さんが僕に残したものが、散っていくよて。
もう一度聞きたいけど、聞きたくない。
もう一度会いたいけど、会いたくない。
こうゆう感情を、なんて言ったかな…
こうゆう気持ちを、なんて言ったかな…
君は春の中にいる。

少し前を行く、白に馬に跨る秀麗な姿。それ自身が美術品のように、絵になる姿。深い緑の中を、金色と白色が互いを際立たせるように輝いて見える。

3.春の中

けれども、その外見に似合わない馬の蹄の音は、荒々しくペースが乱れていた。

「恋をしているからその子は輝くんだ。」
君といると、渡の言っていたことがなんとなく分かる気がする。食べ物に恋をして、ヴァイオリンに恋をして、音楽に恋をして、だから君が輝いているのかな。
こういう気持ちをなんて言ったかな…
これは多分…こういう気持ちは憧れって言うんだ、きっと。
君は春の中にいる。かけがえのない春の中にいる。

手綱を操る顔は、蹄音をそのまま表していた。静かな森の中を、荒れた感情のままに突き進んでゆく不機嫌な顔。機嫌を取ろうとしても、つっかかって来る口調。こうなっては手がつけられないのは、いつものことと十分承知している。

君が音が聞こえないのもピアノを弾いてないのも知ってる。
全部知ってる。
でも君がいいの。
君の言う通り、満足のいく演奏はできないかもしれない、でも弾くの。弾ける機会と聴いてくれる人がいるなら、私は全力で弾く。聴いてくれた人が私を忘れないようにその人の心に、ずっと住めるように。
それが、私のあるべき理由。
私は演奏家だもの、君と同じ。
だから、お願いします。私の伴奏をしてください。
私をちょっぴり支えてください。
挫(くじ)けそうになる私を支えてください。

キルヒアイスは、深い溜息とともに、頭を振って手綱を握り直した。

4.旅立ち(たびだち)

さて、どうしたものか……と、思案を巡らせつつ、そっと苦笑を浮かべる。なんだかんだと溜息は出るが、それでも、不機嫌な姿にさえ見惚れてやまない。さらに、どうやって宥めるのか、宥められるのは自分だけだと己惚れてしまうのは、どうにも手に負えないほど彼を愛しているのだ、と今更ながらに思い知らされて。

天真爛漫(てんしんらんまん)、奇想天外(きそうてんがい)、ジェットコースターみたいに、僕は振り回されてばかり。
この人自信が行き先のわからない旅(たび)のよう、君は、自由そのものだ。

小さく頭を振って、何気なく空を仰いだ。先ほどから気になっていたのだが、空模様が怪しい。高山の天気は変わりやすく、さっきまでの陽気どこへ行ったのか、空は急速に曇り始めていた。

この先は暗い夜道だけかもしれない、それでも信じて進むんだ。星がその道を少しでも照(て)らしてくれるのを。
さあ、旅に出よう。

「雲行きが怪しいですから、やっぱりコテージに戻りましょう」

僕を突(つ)き動(うご)かす。力強く鼓動のように。
君の音が聞こえる。君がいる。
もうすぐ四月が終わる。
乾(かわ)いた冷房(れいぼう)、ほこりの匂(にお)い、僕は…旅に出る。

何度目かの問いかけをしてみるが、一向に戻ろうとする気配はない。

5.どんてんもよう

再び、重く吐息した。この休暇はずいぶん前から決まっていたのだ。人里離れた山荘で、誰にも邪魔されず昔が戻ったみたいなひと時。アンネローゼさまと3人での休暇。口の悪いラインハルトさまが、耄碌ジジイの生前最期の善意、と言ったほどだ。それが、だ。

ピアノは君のほんの一分、でもあの瞬間、確かに、ピアノは君の全てだった。それを無理やり引きやがそうとしている、手足をもぐように。だから、痛くて痛くて仕方ない、苦しくて苦しくて仕方ない、で顔している。
君は忘れられる?うん、絶対に無理。私達はあの瞬間のために生きているだもん。君は私と同じ演奏家だもの。
前代未聞(ぜんだいみもん)、
でも、ここにいる人たちは私達のことを忘れないてくれる。
私、忘れない。
死んでも忘れない。
ありがとう、君のお掛け、君が伴奏してくれてたから、君がピアノを弾いてくれてたから。
ありがとう、有馬公生君。

約束の日、アンネローゼさまの屋敷にお迎えに行ったならば、女官が出てきて、皇帝陛下が朝から体調を崩しておいでなので看病にゆかれました、と言ったものだから、さあ大変。見る間にラインハルトさまの秀麗な顔は憤怒に彩られ、細く長い指はふるふると震えた。しかも、それ以上の説明もなく、女官は、預かっていました、と大きなバスケットと手紙を寄越しただけでさっさとドアを閉めたのだ。

君の言うこと、やること全てキラキラ輝いて。僕は眩しくて目を
瞑(つぶ)ってしまう。でも、憧れずにはいられない。自分の音楽が届いたあの瞬間、忘れられるはずがない。忘れられるはずはないよ。僕君と同じ演奏家なんだ。

大きなバスケットには、白い大きなレースのハンカチがかけられており、そっと捲って見れば、サンドイッチや果物、ケーキに飲み物がびっしりと詰まっていた。山荘に着いたら、3人で食べようと仕度されていたのだろう。手紙には謝罪の言葉と、二人で楽しんで来て、と綴られていた。

6.帰り道

「ラインハルトさま、きっと雨になりますよ。降る前に戻りましょう」

もう、ずっと前から僕の世界は変わっていた。ただ気が付かなかっただけ。僕の体に積もったほこりを払ってくれてありがとう。僕と出会えってくれて…あの日から、僕の世界は、鍵盤でさえ…カラフルになっていたんだ。
友達を好きな女の子、銀(ぎん)色の月から隠れるように、音楽室に二人、夜の中に、僕ら二人しかいないみたいだ。

無駄だと知りつつも、何度目かの問いかけをしてみる。

10.君といた景色

山荘に着くなり、早々、馬を借りて遠出に出た。気の荒い馬だから乗りこなすのは無理だと馬主に言われたにもかかわらず、苛立っていたラインハルトさまは、余計にその馬を選んだ。荒れる馬を制御することで、自分の苛立ちを抑えようとしたのかもしれないが。

あーあ、終わちゃったな。
二の舞、同じ穴(あな)のムジナ、類は友を呼ぶ、あの時演奏を中断(ちゅうだん)した瞬間、君のコンクールは終わった。
君は何のためにヴァイオリンを弾いたんだろう。
容赦(ようしゃ)のない人だ、何を見ても君を思い出す。
本当に容赦のない人だ。
僕の中にいる君でさ、諦めることを許してくれない。
あの時、君は、何のためにヴァイオリンを弾いたのかな。

キルヒアイスは仕方なく、馬主に推された馬を借り、バスケットをくくりつけて後を追っている。けれども先ほどから、空が気にかかるのだ。抜けるように青かった空が急に黒くなり、明らかに雨雲とわかるそれが空を覆って来ている。

微かな寝息が聞こえる、猫みたいだ。
迷い込んだ一枚の花びら、最悪(さいあく)第一印象、友達を好きな女の子…届くかな…届くといいな。
僕の中に君がいる、君がいる。

未だ怒りを制御しきれていないラインハルトは、何度言われても聴く耳を持とうとはしない。今更だと知っていても、彼はどう宥めてよいのか、いつも言葉を探していた。

11.命の灯

「まったく、あのジジイめっ!」

四月のあるひ、変なヴァイオリンストに出会えったんです。傍若無人(ぼうじゃくぶじん)、唯我独尊(ゆいがどくそん)。でも好きな人に見せる笑顔は天使のよう、蹴(け)られ、殴(なぐ)られ、引きずりあげられた舞台には、慣れ親しんだ舞台には、僕の知らない光景があった。僕は、もう一度その光景を体験したい。だから僕は思ったんです、変なピアノリストになりたいなあって…

荒れる馬の手綱をグイと引いて、ラインハルトはどんどん森の中を行く。

僕ね、あの場所で感じたんだ。皆、何かを心の奥底(そこ)に持っているんだって、ある人は敵愾(がい)心かもしれない、憧れや願い、自己(じご)顕示欲(けんじよく)、「届け」という想い、母さんへの想い…皆、個人的(こじんてき)な想いに支えられていた。無垢(むく)のままで、人は一人で舞台に立てないのかもしれない。
「君は?君は心に何を持ってたの?」
「何を支えにしたの?」

空が光った。

「君がいたんだ。」
僕は…旅をする。振り注(そそ)ぐ拍手、自分の音楽が届いたあの瞬間を追い求めて、その後ろ姿を追い求めて、いつかきっと、肩を並べられる、その日がくるまで。

落雷があるかもしれない。彼は決心して馬の腹を蹴ると、前を行く恋人の許へ向かった。

14.足跡(あしあと)

「ラインハルトさま、落雷があるかもしれません。帰りましょう」

始めは…君が馬鹿にされたから、でもね、途中から音が消えて、母さんの言葉やしぐさや匂い、母さんとの思い出が音になって空に舞い上がってた。
やっぱり、あの選曲は、僕のための選曲だったんだ。愛の悲しみ、この曲は、母さんを思い出させる。柔軟剤(じゅなんざい)の匂い、寝ぼけまな子に聴こえるピアノ、控(ひか)えめな子守唄(こもりうた)、消毒液(しょうどくえき)の匂い、響く足音、白く濁(にご)ったリノリウムの床(ゆか)、君と重なる。
平気だよね、大丈夫だよね、検査は嘘じゃないよね、もう学校に来ないなんて言わないよね、また会えるよね。
君は…君は母さんみたいに…いなくならないよね。

「くそっ、まだ幾らも走ってないじゃないかっ!」

16.似たもの同士

帰らない、と駄々をこねて馬の腹を蹴った。

「君はわすれるの?学校を探検した女の子を、一緒に迷子を助けた女の子を、病院を脱げ出して待ってた女の子を…君は忘れるの?」
「忘れない。死んでも忘れない。」

俄かに広がる距離。

無駄な一日なんかじゃないよ、このまま時間が止まっちゃえって思うくらい素敵な一日だった、ありがとう。
お買い物して、夜の学校を探検して、男の子に送ってもらう帰り道は…こんなに星がキラキラしてるんだね。

空が、また光った。

肌(はだ)寒いせいかな、交(か)わす言葉が暖かい、余計に君を近くに感じる。渡の代役でも何でもいい、ずっと…このまま…
僕は、その涙の訳(わけ)を、聞けなかった。

キルヒアイスは、心配そうに空を見上げて溜息を吐く。

18.心重ねる

「馬にあたっても仕方がないでしょう? 帰りますよ」

肌寒く、シンと乾燥した空気、洗濯したシーツが気配を優しくする、残酷な男の子、私にもう一度、夢を見ろと言う。
夢が叶(かな)ったからもういいって思ってたのに、諦めたのに、君はまた、枯(か)れた心に水をくれるのね。
欲張(よくば)りな私は、また夢を見ちゃうよ。
いつか、君とワルツを…だなんて。

「嫌だ」

19.さよならヒーロー

振り切るように、白馬は加速していった。呆れた彼も再び馬の腹を蹴ると、前をゆく金髪を追う。強引に手綱を握り、連れ戻すしか方法はなさそうだ、と意を決めて手を伸ばした刹那―――。

四月に出会った男の子がいました。泣いて吐き出して、みっともないくらいあがいて…でも舞台では星のように輝いて、その人生は美しく奏でられるメロディーのよう…その男の子と約束したんです、「また一緒に弾こう」って…だから私も…一生懸命あがいてやろうと思います。みっともなくでも悪あがきでも、あがいて、あがいて、あがいて、あがきまくってやる。私は皆の仲間だもの、このままふてくされて諦めたら、生んて育ててくれたお父さんやお母さんに顔向けできないもの。私の人生だもの…このまま諦めてたら、私がかわいそう。

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……ドーン。

20.手と手

馬の、狂ったような嘶き。

星の海を飛行機が渡ってゆく、君は猫のよう、音もなく近づき、予想のつかない角度から翻弄(ほんろう)する、僕はあっけにとたれて、いつも君のぺーす。鉄の塊が流れ星のよう、君と同じ空を見ているだけで、見慣れた風景が違って見える、君のちょっとしたしぐさに一喜一憂(いっきいちゆう)、僕の心はメロディーを奏でだす。
こういう感情を何て呼んだかな、こういう気持ちを何て言ったかな、これは多分恋と呼ぶんだ。これはきっと、恋っていうんだ。

「あぶな……」

22.春風

「わっ…!」

君の言う通りだ、耳を澄ませば、僕はたくさんの音で溢れている。僕は、一人じゃない。僕らは誰がと出会った瞬間から、一人ではいられないんだ。僕らは繋がている。
君がいる。
病気なんて蹴散らしちゃえ、そしてまた一緒に…二人で…
待って…行かないでくれ、またカヌレをねだってよ、暇つぶしに電話してきてよ、友人Aで構わないから…行かないで、行かないで、行かないでくれ、僕をおいて行かないで。

白い馬の前足が、高々と宙を蹴った。手綱を締め切れなかったラインハルトは、背から振り落とされまいと必死にしがみ付いた。前足が地面に着いて、漸く体制を持ち直したつかの間、突如暴走し始めた。

拝见、有马公生様

振り落とされまいと必死にしがみ付くのが精一杯で、とても制御できそうにない。激しく揺さぶられながら、猛烈な速さで木々の中を、道無き道を突き進んでゆく。

さっきまで一绪にいた人手紙を書くのは、変な感じです。
君はひどい奴です。
クズ、のろま、あんぼんたん。
君を始めて见たのは、五つの时。
当时通ってたピアノ教室の発表会。
ぎこちなく登场したその子は椅子にお尻をぶつけて笑いを诱い。
大き過ぎるピアノに向かい、一音を奏でたとだん。
私の憧れてなりました。
音は二十四バラットのようにカラフルでメロデイは踊りだす。
隣の子が泣き出したのはびっくりしました。
それなのに、君はピアノを辞めるんだもの。
人の人生を左右しといて、ひどい奴です。
サイテー、のろま、アンポンタン。
同じ中学と知った时は、舞い上がりました。
どうやらば声かけられるのかな?
購買部にサンドイッチ买いに通おうかな?
でも結局、眺(なが)めてるだけでした。
だって、みんな仲间すぎるんだもの。
私の入りスぺースは…ないんだもの。
子供の顷に手术をして、定期に通院(つういん)
中一の时に倒れたのをきっかけに、入退院(にゅうたいいん)の缲り返し。
病院で過ごす時間が长くなりました。
ほとんど学校に行けなかったな。
あまり自分の身体が良くないのは分かってました。
ある夜病院の待合室で、お父さんとお母さんが泣いているのを见て。
私は长くないのだとしりました。
その時です、私は走り出したのです。
後悔を天国に持ち込まないため、
好き勝ってやったりしました。
怖かったコンタクトレンズ、
体重を気にしてできなかったケーキホール食べい。
偉いそうに指図する譜面もわたしらしく弾いてあがた。
そして、一つだけ嘘をつきました。
宮園かをりが、渡亮を好(す)き、と言う嘘をつきました。
その嘘は、私の前に有馬公生君
君を連れて来てくれました。
渡り君に謝っておいて、まーでも、渡り君ならすぐ私のことなんが忘れちゃうかな。
友達としても面白いけど、やっばり私は一途(いっと)な人がいいな。
あと、椿ちゃんにも謝っといてください。
私は通り過ぎてなくなる人間。
変な祸根(かこん)を残したくなかったので、椿じゃんにはお愿いできませんでした。
というか、有馬君を紹介してなんてストレートに頼むでも。
椿じゃんはいい返事をくれなかったと思うな。
だって椿じゃんは、君のこと大好きだったから。
みんなとっくに知ってるんだから、
知らなかったのは君と椿じゃんだけ。
私の姑息(こそく)の嘘が連れてきた君は想像と违ってました。
思ってたより暗くて卑屈(しくつ)て、
意固地(いこじ)でしつこくて盗撮魔。
思ってたよりこえが低くて、
思ってたより男らしい。
思ってた通り優しい人でした。
から飞び だ川を冷たくて気持ちよかったね。
音楽室をのぞくまんまるの月はお馒头みたいで美味しいそうだった。
競争した電車には本気で勝てると思った。
辉く星の下で、二人で歌ったキラキラ星、楽しかったね。
夜の学校で绝対何があるよね。
雪って、桜の花びらに似てるよね。
演奏家なのに舞台の以外のことで心がいっばいなのは、なんかおかしいね。
忘れられない风景がこんなの些细(ささい)ことなんて、おかしいよね。
君はどうですか?
私は誰かの心に住めたがな?
私は君の心に住めたがな?
ちょっとでも、私のこと思い出してくれるかた?
リセットなんかいやだよ。
忘れないでね。
約束したからね。
やっばり、君で良かった。
届くかな、届くといいな。
有馬公生君、君が好きです。
好(す)きです。
カヌレ全部食べれなくてごめんね。
たくさんたたいてごめんね。
わがままばかりでごめんね。
いっぱいいっぱいごめんね。
ありがとう。

「ラインハルトさま!」

PS:私の宝物を同封(どうふ)いたします。
いらなかったら破って舍てて下さい。

後ろからキルヒアイスが追う。

宮園かをり

「ダメだ! 全然言うことを聴かない!」

もうすぐ、春が来る。
君と出会った春が来る。
君がいない…春が来る。

必死に首に手を回し必死にしがみ付いたまま、彼は振り返って叫んだ。

 

まったくとんでもない事になった。これも、自分がキルヒアイスの言うことを聴かなかったからだ、気の荒い馬にこんな感情のままに乗ったからだ、と今更後悔してみるが、ラインハルトの乗った馬は一向に止まる気配がなかった。

ぽつぽつ降り始めた雨が、急速に激しくなってゆく。どこからか、水の音も聴こえてくるようだ。もしかしたら、この先は谷にでもなっているのかもしれない。暴走は止まる気配が無い。振り向く顔、追いかける顔に、不安が過ぎった。

雨音と、水の音。

川か、谷か。

この先に危険があるのは間違いないようだ。そして再び―――。

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……ドーン。

狂った嘶き。

蹴り上げられた両足は、宙を蹴る。

「うわっ!」

先ほどよりもより高く傾いた背は、簡単に人を振り落とす。キルヒアイスは、落ちてゆく身体を抱きとめようと、必死に腕を伸ばした。

ドサッ。

枝の折れる音とともに、二つの身体が激しく地面に叩きつけられた。

「痛っ……」

足を折れた幹に叩きつけたようで、ジンと熱く疼いた。地面にぶつかった衝撃で、息も出来ず視界が暗くなる。走り去る馬の蹄。そして突如、悲鳴のような泣き声。

容赦なく頬に打ち付ける雨粒で、ラインハルトは急に我に返った。

「キルヒアイス!」

慌てて身体を起こせば、その下から痛みに顔を歪めた彼がいた。

「……大…丈夫…ですか?」

急いで抱き起こしてみる。目だった外傷はなかったが、歪んだ表情が痛みを物語っていた。

「キルヒアイス! 大丈夫か?」

肩に手をやりながら、痛みに顔をしかめる。それでも、無理に笑って。

「大丈夫です。それよりラインハルトさまは?」

おろおろと動揺し、大丈夫だ、と頷くのが精一杯で。どうしたらよいのか考えることすら出来ず、無意識にその手を差し出した。恐縮そうにラインハルトに支えられながら、彼はゆっくりと立ち上がる。傍には彼の乗っていた馬が、静かに鼻を鳴らしていた。

大丈夫だから、と顔を撫でてやり、何気なく白い馬が走り去った方を見た。二人は一瞬にして、血の気を失った。その先には、途切れた地面がある。高さは分からないが、おそらくは谷にでもなっているのだろう。危うく二人とも落ちるところだったのだ。

どちらともなく顔を見合わせて、安堵に笑みを浮かべる。急に強まってきた雨脚に、キルヒアイスは空を見上げて。

「帰りましょう。これ以上酷くなったら危険です」

馬の手綱を握ると、鐙に足をかけた。

「っ痛……」

瞬間、襲ってくる激痛。

彼は、乗り損ねて再び地を踏んだ。

「大丈夫か?」

心配そうに肩をさすって、今度はラインハルトが手綱を握った。ヒラリと軽い身のこなしで、馬にまたがる。そして、キルヒアイスに向かって手を差し伸べた。

ここで、もたついている訳にもいかない。痛みは一瞬のこと。馬に乗りさえすれば、あとは何とでもなる。彼は覚悟を決めると、差し出された手を握った。もう一度鐙を踏み、精一杯地を蹴って反動をつけた。

「うっ……」

苦痛に歪む顔。それでも手を握り締め、ラインハルトの後ろに跨った。はっ……と馬の腹を蹴って、もと来た道を引き返す。

強まる雨脚。

「ごめんな、キルヒアイス。俺が言うことを聴かなかったばかりに……」

あまり早く走ればキルヒアイスの肩に響くので、ゆったりとした速さで森の中を進む。雨粒が葉に当たって、ぱりぱりとうるさい音をたてる。

「そうですね。本当にあなたって人は……。ま、今に始まったことじゃありませんけど」

ラインハルトの両脇から手を伸ばし、手綱を握る。ぴったりと隙間なく合わさる背と胸。耳のすぐ傍で、恋人の声が聞こえることに、ラインハルトは少し恥ずかしい気がした。

どれくらい戻っただろうか。けれども一向に道は見えてこない。変化のない森の中。同じ樹木に同じ倒木。どこまでも覆い茂るシダ。同じ景色、繰り返される光景。

不意に馬の足取りが止まった。

「本当にこっちの方角でしたでしょうか?」

前を見て、ゆっくりと後ろを振り返る。違う眼差しが、左右を見比べる。果たして、後ろが前か。前が右なのか左なのか―――。

「……やはり、迷ったのか?」

と、言うことでしょうか……と、キルヒアイスは困惑の声を上げて手綱を引いた。

「困りました。迷ったときは無闇に動かない方がいいのですが、この雨では……」

見渡す限りの樹木。多い茂る葉。天を仰げば、降り注ぐ雨。

「ここにこうしていても、身体が冷えるばかりだ。もう少し移動して、雨がしのげる場所を探そう」

そうですね、と彼は再び手綱を握った。痛くても、さっきよりもペースを上げて進む。

張り出した枝をくぐり、葉を掻き分けて進む。

すぐ目の前に見える金髪は、すっかり濡れてしまって地肌まで見えている。寒くないように、とより身体を密着させて、先を急いだ。そして―――。

突如、開けた場所に出る。

「これって……」

森の奥深く。訪れる人もなく忘れ去られた廃墟。尖がった屋根の先、半分朽ちたシンボルが、かろうじて何であったのか想像させる。

「埃りっぽいでしょうけど、雨はしのげそうですよ」

朽ちた扉は既になく、代わりに覆い茂ったツタが暖簾のように垂れ下がっている。二人は馬から降りると、ツタを掻き分けた。

薄暗くてはっきりは見えないが、隅の方へ積み上げられたまま腐った家具類が見える。あとは駄々広いホールになっていて、石の間からは痩せた木が生えていた。

手綱を引いて馬も入れると、適当な石の突起にくくりつけた。落ち着いたのか、暢気に石の間に生えている草を食べ始めた。

二人はその様子に緊張を解されたのか、クスリと笑ってバスケットを降ろした。草も生えてなく、平らな石畳を探して腰を下ろした。雨はしのげるが、朽ちた窓には当然ガラスのようなものもなく、場所によっては雨が降り込む。

「止みそうにありませんね」

寒いのか、ラインハルトが身体を寄せてきた。詫びるように見上げて、大丈夫か? と、視線を送ってくる。本当に悪かった、と反省しているのだろう。彼には甘いキルヒアイスのこと、穏やかに笑って安心させようとする。

「寒いのですか?」

ぴったりと寄せ合った身体は、どちらともなく震えていた。彼は肩を庇いながら立ち上がると、朽ちた家具らしきものの残骸へと近づいた。

何度か往復してラインハルトの座っているすぐ先へ、適当な大きさの木材を積み上げる。

「ラインハルトさま。そこの吹き溜まりになっている枯葉をそこに」

組み上げた木材の隙間へ、言われたとおり枯葉を詰め終わると、彼はバスケットの中からライターを取り出した。

「出掛けに入れておいたんです。まさか役立つとは思いもしませんでした」

枯葉はすぐにパチパチと音を立て始めた。程よく乾燥して朽ちた材木は簡単に火が着く。俄かにぬくもりが頬を照らし、冷え切った肌を温めてくれた。

二人は並んで腰を下ろす。

ゆらめく炎が、ラインハルトの白い頬を撫でる。

これでは乾きにくいから、と二人は上着を脱いで火の傍に並べた。そして身を寄せ合い、暖をとる。

「何か飲み物、ありませんでしたかね……」

バスケットを引き寄せてカバーを捲れば、白い大きなレースのハンカチ。隅にはアンネローゼのお手製の刺繍が見える。それをラインハルトに手渡すと、彼は感慨深げに見入った。

バスケットの中にはポットがあった。少し冷めたコーヒーだったが、今はこれで十分。蓋のカップに並々と注ぎ、二人で分け合って飲んだ。身体に染み入るぬくもりに、どちらともなく、ほう……と、息を漏らす。

「俺は本当に非力だな」

淡い炎の中でハンカチの刺繍を見つめ、ラインハルトはポツリとつぶやいた。

「姉と休暇をともにとることもままならず。助けようとした姉に、逆に救われてばかりだ」

怪我を負っていない方の肩に寄りかかってくる。

「お前にも、怪我を負わせて……」

ごめん、痛かっただろう? とそっと手を伸ばしてさする。

普段と違いうなだれた肩は、か細く華奢で頼りなげだ。凛とした声も、はりを失っている。こんな時こそ、思う存分甘やかして守りたいのだけれども……。

自分の抑えきれない感情のために、迷惑をかけてしまったのだと、深く傷ついている様子。こんな時の不用意な慰めの言葉が、返って深く傷つけることになると知っている彼だからこそ、何も言わず、ただじっと黙っていた。

「姉上を盗られて9年。力を得ようと必死にここまで来たが、9年かかっても、ここまでしか来ていない」

レースの白いハンカチを握り締め、深い吐息を漏らす。その横で彼は、寂しげな横顔を見つめ自身を責めた。

非力なのは自分とて同じこと。この姉弟を守るのだと誓いを立てて、いったいどれ程の月日が流れたことだろうか。ラインハルトと共に生き、同じ高みを目指し、いつかアンネローゼをこの手に取り戻して幸せな二人の姿を見たい、と。それなのに現実は。

焦ってはだめだ、と頭では分かっている。今の出世さえも、驚異的だということも。けれども、こうしてラインハルトがふせる度に、どうしようもない非力さを突きつけられて、己が身を責めるほか、苛立ちを鎮める術を知らないのだ。

寄りかかる華奢な肩を抱き寄せた。倒れこんできた金色の髪が、鼻先をくすぐる。

「キルヒアイス。……俺達は、姉上を取り戻せるよな」

決して、弱気になっている訳ではない。もしや取り戻すことができないのでは、と疑っている訳でもない。ただ、確認したかったのだ。それはキルヒアイスにだけ見せる姿。

「俺達は、姉上を取り戻せるよな」

「もちろんですよ」

肩を抱かれたままラインハルトは、彼を見上げた。いつものやさしい顔。穏やかで、自分を包み込んでくれるあの、青い眼差しがそこにあった。

「焦りは失敗を招きます。ラインハルトさま、焦ってはなりません」

うん、分かっている……と、小さく頷いて身体をすり寄せる。

雨はまだ降り続いていた。雨脚は激しいようで、外は日暮れのように暗い。所々雨漏りはしているが、炎は暖かく二人を包んでいた。

静かな時の流れ。炎はパチパチと音を発し続ける。

雨音が続いている。

水滴が、激しく葉を打ちつけた。

寄り掛かる華奢な肩。乾いた金髪が、さらさらと頬をくすぐった。

何の疑いも、何の不安もなく、無防備に凭れる身体。

痛めていない方の腕を伸ばすと、抱き寄せた。

炎に照らされて色づいた顔が、上がる。

まっすぐに見つめてくる蒼氷色の眼差し。

いとおしく、いとおしく、肩を抱き寄せる。

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